◯ 日本糖尿病医療学学会 代表理事 挨拶
石井 均
市立奈良病院 教育研修センター長、糖尿病・内分泌内科シニアアドバイザー
この度、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 教授 福井道明先生とともに日本糖尿病医療学学会の共同代表を務めさせていただくことになりました。2014年に第1回を開催して以来、10年以上にわたって継続してこられたことは、そこに参加していただいた医療者の皆様の不断の診療活動によるものであり、また、糖尿病医療学がPwD(person with diabetes)とともに歩む皆様の活動に寄与するものであるという確信を持てるようになりました。
糖尿病医療学はその意義を認識する/認知していただくことから始めて、多くの課題に取り組んできました。少しずつではありますが理解者は増えてきたように思います。しかし、近年医療を取り巻く環境は厳しさを増し、多くの医療者が基本的な日常業務をこなすことで精一杯の状況にあります。その中で医療学フィロソフィーを伴う活動はどのようにして可能なのか、など新しい課題に取り組んでいくことになるでしょう。多くの仲間と新しい道を開いていきたいと思っています。
福井道明
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 教授
医学は科学と技術を基盤として病気の診断と治癒 をめざす学問です。医療は,病を持つ人に医学の成果を適用していく際の技術的・人間的行為です。医療学は,その行為が病を持つ人の利益となるような人と人(医療者と患者)の関わり方を探求する学問です。医療学における関わり方は,課題の設定と解決に関して双方向性であることを原則とし,相互理解/信頼を基本に,医療者は医学的支援とともに人間的支援(心理精神的支援,生活社会的支援)を行います。相手の気持ちや感情が理解できたとき(真の共感), その人の行動の意味が分かります。それが適切な支援の始まりになります。相手のことに深い関心を持ち,よく知り たいという(聴こうとする)医療者の態度が,糖尿病をもつ人のウェルビーイング,満足度や安心感,治療意欲,生き方の選択に大きな影響を及ぼします。糖尿病医学の発展はめざましいものがあります。多くの薬剤やデバイスが使えるようになり血糖値や合併症のマネージメントは明らかに改善しつつあります。しかしすべての糖尿病をもつ人の血糖値や合併症のマネージメントが十分とは言えない状況です。糖尿病医学と糖尿病医療学の両輪で糖尿病をもつ人に対してアプローチすることが糖尿病をもつ人にとっても医療者にとっても幸せへの道であると考えます。
糖尿病学会が掲げる「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」という目標を達成するため、糖尿病をもつ人に寄り添うことのできる、真摯で誠実な医師・スタッフを全国レベルでもっともっと増やしていく必要があります。糖尿病を有する人の視点に立った真の意味での「個別化治療」を実践するために、本学会の仲間と情報共有・議論したい症例を持ち寄り、問題点を把握、議論を重ねることで、よりよい対処法を模索したいと思います。これまでの医療学研究の流れを継承し、学術団体としての学会活動をさらに推進するとともに、産業界や社会に向けた活動も視野に入れ、糖尿病医療学の更なる発展に貢献します。新しい試みも意識的に取り入れながら、本学会を益々発展させるために努力していきますので、臨床医、医療スタッフ、心理学研究者の皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。
◯ 日本糖尿病医療学学会設立理念
当学会は、糖尿病治療の人間的側面により深く焦点を当てた学問領域として糖尿病医療学を提唱し、患者の生涯に亘る糖尿病との関わりを視野に置いて、患者の心理と行動、医療者と患者との関係、患者による治療利益評価の測定等について議論と研究の深化を図り、もって糖尿病療養法の発展に寄与することを共通の目的とし、その目的に資するため次の事業を行う。
◯ 学会の目的
糖尿病の診療を続ける中で、いろいろな困難や成功に出会います。その中には医学的なこと、すなわち治療法(例えば薬剤)そのものの選択や使用法、あるいは治療技術の習得に関することがあります。
一方で、糖尿病を持つ人(患者さん)の自己管理や心の問題に出会うこともあります。そのようなとき、医療者は診療を通じて、良い方向に向かうようにサポートを続けるのですが、出口がなかなか見つからず、ともに悩んでしまうことも少なくありません。また、あることがきっかけとなってそこから抜け出す体験をされたかたもあるでしょう。
本学会では、糖尿病を持つ人、その人たちをケアする人、ケアする人をケアする人、取り巻く環境や社会、それらの人たちのこころと行動に焦点を当てて、糖尿病臨床‐医療を学ぼうとするものです。
いろいろな事例、症例を持ち寄っていただいて、通常の学会より時間をかけて(演題数にもよりますが短くても20分くらい)じっくりと検討会をやりましょう。その中から糖尿病治療に対する知恵と元気を得たいと思います。
◯ 役員(五十音順)
役職 | 氏名 | 所属 |
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代表理事 (共同) | 石井 均 | 市立奈良病院 教育研修センター長 糖尿病・内分泌内科シニアアドバイザー |
福井 道明 | 京都府立医科大学 大学院医学研究科内分泌・代謝内科学 教授 | |
理事 | 皆藤 章 | 京都大学 名誉教授 |
田中 史子 | 京都先端科学大学 人文学部 心理学科 教授 | |
寺内 康夫 | 横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 教授 | |
監事 | 林野 泰明 | 天理よろづ相談所病院 内分泌内科 部長、糖尿病センター センター長 |
山川 正 | 医療法人みなとみらい 副理事長、理事長代理/ みなとみらいクリニック 院長 |
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(2025年7月22日現在) |